Specified Psychiatric Hospital for Isolation and Aegis
スフィア

悟達の滞在する施設は、北海道の礼文島の西方約5km――
「青鷺島」と呼ばれる孤島に建っている。
最果ての地とはいえ、礼文島付近は対馬暖流に3/4周かこまれている影響で温暖である。真冬は確かに厳しいが、それでも冬場の気温はマイナス6度くらい。(なお、日本で一番寒い場所はマイナス40度) 積雪量もせいぜい1.5m程度である。
施設の正式名称は『隔離と保護のための特定精神医療施設』。
通称――『SPHIA/スフィア』――。英名:〔 Specified Psychiatric Hospital for Isolation and Aegis 〕
2007年の刑法改正により全国各地に新設された特別精神病院。重大な犯罪行為をした精神障害者に適切な治療を施し社会復帰させることを目的とする。施設の構造や治療内容は患者のプライバシーを尊重し一切明かされていない。公開されているのはその場所のみである。
この物語に登場するスフィアは、その中のひとつにあたる。
青鷺島はスフィアが建設されるまでは無人島だった。飛行場はなく、稚内港から不定期に出航する船だけが唯一の交通手段である。 通常、この島には政府発行の許可証がなければ上陸することはできない。
スフィアの周囲は高い壁に囲まれている。円を描くような形で高さ7mもの壁が、まるで来るものを拒むかのように(あるいは内部のものを閉じこめるために、か?)立ちふさがっている。壁の円周はとても長く、その半径は110mにもおよぶ。
壁の内部(敷地内)と外部とは巨大な正面ゲートによって結ばれている。
このゲートは常時閉ざされており、自由に出入りすることは出来ない。
 
敷地内には、その面積に反比例するかのように、ほとんど何もない。
だだっ広い庭と、小さな丘と、バスケットボールコート。それと、円の中央にあるメインの設備――施設建造物。ゲートから施設建造物までの道には、ロードヒーティング(※)と呼ばれる設備によって積雪はない。建造物の屋根にも同様の設備のおかげで雪は積もっていない。
※ロードヒーティング: 舗装内部に電熱線を埋め、 放熱によって積雪や路面凍結を防ごうとする設備。
 
 
施設建造物は不思議な形状をしている。平屋(1階建て)で、四角い中央部の四隅にさらに小さな四角形の部屋がくっついている。屋上には落下防止の柵のようなものは見当たらない。それどころか、屋上に昇るための手段(階段や梯子)さえも存在しない。 中央部の後方には、天を突くようにして時計台がそびえ立っている。時計の文字盤は東西南北4面すべてに向かって時を刻んでいる。
 
建造物内部には、4つの個室とリビング、キッチンがある。個室の中には、ベッドと机とクローゼットと3点式のユニットバスが設置されている。それらは、とてもコザッパリとしていて、清潔で、快適な印象を与える。しかしだからこそ、どこか空々しく虚ろな「偽物的」雰囲気も感じさせる。ひとの温もりみたいなものを、根こそぎ剥ぎ取られてしまったような……。4つの個室はどれもレイアウトが同じである。リビングには大型のプラズマテレビとコンピューターが備えられている。キッチンは最新式のシステムキッチンである。ミキサーや電子レンジ、置くだけで使えるIH(電磁調理)機能を内蔵したテーブルなどが当然のように用意されている。
居地下には倉庫があり、 中にはたっぷり1週間分の 水・食料・食材が蓄えられている。  
リビングの南側は総ガラス張りになっていて、その外側にテラスがある。
劇中は冬なので雪が積もっており、ガンガンに寒いので、テラスに出てお茶を、という気分にはまずならない。
ちなみに、時計台から落下した悟が墜落する場所はこのテラスである。
雪がうず高く積もっていたおかげで落命を免れたというわけだ。
  さて、ここまで説明してお気づきになっただろうか?
そう……
建造物外部にも内部にも、屋上や時計台に至るための手段が何一つ存在しないのだ。
では、悟はどうやって時計台へと登ったのか?
悟は……
あなたは……
それを、知らない。
このスフィア敷地内が、悟達4人の物語の主要舞台となる。
 
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