根方家・庭

 
 

 生贄の血に塗れた、根方の歴史を積み上げた書架から生じる
閉塞感に耐えきれなくなり、私と保美は屋敷の外の庭に出た。

【梢子】
「…………」

 私も保美もため息を吐くのは何度目のことだろうか。
 いくら吐いても吐き出しても、胸にこびり付いた重苦しい何かは、
身体の内からなくならない。

【保美】
「まさか、わたしの家がこんなことをしていた家系だったなんて
……」

 想像力豊かな保美のことだから、生贄の血を啜り続けてきた
業が積み重なり、自分の代で本物の鬼になってしまったと考え
ているかもしれない。
 夜闇の中に黒々伸びる屋敷の影が、保美を――根方保巳を
己が内に取り込もうとしているようで。
 私の知っている剣道部マネージャーは、優しく恥ずかしげに
微笑む相沢保美は、一刻たりともこんなところにいてはいけな
いのだ。
 もはや保美の体質云々どころではなかった。
 例えヒノクスリで保美の虚弱が治るにしても、その製法を知って
しまった今となっては、保美も飲む気にはならないだろう。


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