寺の本堂で怪談話

 
 

【汀】
「それじゃあ、あたしが聞かせましょうか。怖くて不気味な怪談を」

【汀】
「せっかく海の近くだから、海っぽい怪談がいいかもね」

【汀】
「さて――」

 汀は一旦そこで間を置き、ゆっくりと円座に連なる一同に視線
を巡らせる。
 雰囲気作りに凝った百子が用意した、何本かの蝋燭だけが照
明だ。
 隙間風にゆらりと揺れる小さな炎が、ちらちらと広がる影を
揺らめかせる。
 影は炎が照らす範囲を越えると、お堂の四隅からにじり寄る
暗闇に溶け込み、その濃さを一層のものにしている。
 闇に飲まれた汀の声が、わずかな遅れを伴って微かに木霊と
響くのは、実際はお堂の広さのせいなのだろうけれど、何かが
いるようさえ思える。
 その残響さえ飲み込まれ、しんとその場が静まり返り、しっか
りと緊張の糸が張られたのを確認してから、汀は静かに口を開
いた。




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