【佑快】
「その銘を、蜘蛛討ちと申す」

 鋭い打ち込みで宙を切り下げ、びたりと青眼に据えてそう言
った。

【梢子】
「お守りって、日本刀か何かですか?」

 国の東西、時代の古今を問わず、刀剣の類には魔除けや厄除
けといった神秘的な《力》が宿るとされている。
 中でも武士の魂として、下にも置かぬ扱いを受けてきた日本刀
は、神職さながらに精進潔斎した刀鍛冶が打ち上げるのだから、
さもありなん。

 日常から刀剣類の失われた現代日本にあってもその習俗は引
き継がれており、葬儀の際には守り刀が遺体の布団に乗せられ
たりする。
 良くあるそれは懐剣程度のものなのだけれど、そこは和尚も
古刹の住職にして古流の剣士。
 曰くありげな名刀の一本や二本、所持していても別段おかしな
ことではない。

【百子】
「おおっ、日本刀!?」

前へ
 
 

 しかも何やら大層な銘まで持っているらしい。
 蜘蛛討ち――

【梢子】
「確か、そんな感じの名前の、すごい刀があった気がするんだ
けど……」

【保美】
「もしかして蜘蛛切りのことですか?」

【梢子】
「たぶん、それ」

【保美】
「でしたら、源氏の宝刀です」

【百子】
「源氏って『イイクニ作ろう鎌倉幕府』の?」

【保美】
「そうそう、源頼朝とか源義経とか」

【百子】
「ってことは、ざっと八百年ぐらい前の――」

【保美】
「ううん、作られたのはもっと古くて、平安時代の……」

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