ゆらゆらと揺れる――
 水底にある絵を見るように。
 異なる世界はゆらゆらと、遠く遙かに歪んで見える。
 この場でどんなに目を凝らしても、はっきりと見て取ること
は出来ない。

 そこにある絵は何なのか?
 底にある映像(え)は何なのか?
 遠い世界の映像は、遠い記憶の断片だ。
 私の脳の奥深くに、沈み眠っていた記憶。
 思い出すことも、思い出される必要も、思い出させる出来事
もなく、私の中の深いところで静かな眠りについていた――
 忘れたことさえ忘れられ、私の最期と共に朽ちていたかもし
れない、過去(いつか)の光景(ひかり)。

 それが今。
 それが今更。
 呼び水に呼ばれたそれが。
 水底の城の門を開き――

 私は――

 私は過去の奔流に呑み込まれた。

 
 

常咲きの椿の森を行く梢子と女の子

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