鬼から敗走する兵士。沈む船

 
 

 今から二千百年ほど昔、南の端っこの方に浮かんだ島を、半
島経由でやってきた鬼の一団が占領してしまいました。
 ううむ、口惜しや。さほど大きな島ではないが、伊邪那伎命と
伊邪那美命が産み賜うた我らが神州、我らが領土。外つ国の鬼
なぞに渡してなるものか。
 その島を含む近辺を任されていた領主は、即座に征伐軍を組
織して、鼻息荒く白波を切り鬼ヶ島へと船を進めました。日本の
レコンキスタです。
 ところが相手は人ならぬ鬼。頑健剛力だけではなく、妖術まで
も能くします。
 鬼の王がむにゃむにゃと呪文を唱えると、むらむらと立ち昇った
妖気が黒々とした群雲に変じ、大雨大風でもって海を時化させて
しまいました。
 ただでさえ島の周りには速く複雑な潮流があり、船底を穿とうと
待ち構える岩礁と相まって、航海上の難所だったというのに――
 それに暴風雨まで加わっては、たまったものではありません。
まさに鬼に金棒、領主率いる征伐軍は手も足も出せなくなって
しまいました。
 さらには弱り目に祟り目なのか、それとも鬼の反撃なのか、
至る所で疫病が流行り始め、それは全土に蔓延しました。
 疫病といえば飢饉もセットでついてくる、地震・台風・旱魃
と並ぶ特級災害イベントです。もはや鬼退治どころではありま
せん。
 それから続くは忍苦の年月――ようやく事態が好転するのは、
なんと二年も経ってからのこと。

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