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ひ と と せ の ひ と ひ ら ・ 卯 月
 
麓川 智之
 
 

 一年のかけらが一片、ひらひら空を舞っている。
 形良く伸びた枝から離れた花びらが風に乗り、だけれど圧倒的な影響力を持った地球を袖にすることも儘ならず、独りはぐれてふらふら空を舞っている。
 遠くの青に溶けてしまったそれからぐるり視線を巡らすと、頭上に溢れる雲霞のごとき爛漫の花に目を奪われる。
 花びら一枚一枚は仄かな色しか持たない白にも拘らず、花霞と群れ咲くに到っては酔いに上気したかのように染まり、眺めるわたしも羽化登仙の心持ちになるそれは、まさに桃源の景色。
 咲くのは桜の花ばかりなのに桃に例えるのは如何なものか。しかも月の和名は卯の花月ときたものだから、何やら桜に申し訳ない――
 そんな益体もないことを考えているわたし、羽藤桂が下級生の範となるべき最高学年になってから、すでに十数日が過ぎようとしている。例年通りならば花はそろそろ疎らに散り行き、爽やかな新緑に取って代わられているような時期である。
 だけれど今年の冬将軍はお尻の重たい安産型だったようで、桜の開花もやや遅れ、舞い散る季節もやや遅れ、今日(こんにち)今宵も花見頃。葉桜過ぎには気をつけなきゃいけない毛虫もまだまだお休み中の模様で、鬼の居ぬ間に何とやらとお花見に繰り出した羽藤さんたち御一行。
 とはいえ銘菓「十三石まんじゅう」を誇る街に根差した木々は、入学式を終えるや否や役目は済んだとばかりに散り急き始め、どうせ見るなら満開の花をと欲張った総勢五名は桜前線を追いかけて北上することに。


 

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