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髪 長 姫
 
麓川 智之

挿絵:Hal
 
 
 髪を伸ばすと決めてから、もうじき十一年になろうとしている。
 伸ばそうと決めた理由はそれほど大したものではなく、お母さんが「桂は長いほうが似合うんじゃないかしら」と言ってくれたから。
お母さんの髪は程々に長くて、当時男の子みたいに短くなっていたわたしは、お母さんとお揃いにしたいと思ったのだ。言われるまでは気づかなかったけれど、そもそもどうしてこんなに短いのか――
 わたしは覚えていなかったから、お母さんに訊いたのだ。
「どうしてわたしの髪の毛、お母さんみたいじゃないの?」
 わたしはお母さんっ子だったから、いろいろと真似たがるはずなのだ。なのにどうして短いのか、それを不思議で仕方なかったのだ。思考の手がかりが頭の中にあれば、自分で答え探しをしたのだろうけど、その頃のわたしは自分のことをあまり知らなかったから、お母さんに問うしかなかった。
「桂、あなたはね――」
 そうして手に入れたのは、火事が全てを奪っていったという答え。
 十と一年ほど前に、煙に巻かれたわたしはお父さんと記憶を失ってしまい、その災いで焼けてしまった髪は短くせざるを得なかったのだと、そう聞いた。
 だけれど、それは偽りの出来事。
 失われたと思っていた記憶は、わたしが糊塗した虚ろの向こうに隠されていただけで、長い月日にすっかり古びて乾いた嘘は、去年の夏にばらりと崩れ――
 わたしは記憶を取り戻した。
 優しく髪を梳いてくれる、白い手の持ち主を取り戻した。

 


 

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