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ひ と と せ の ひ と ひ ら ・ 弥 生
 
麓川 智之
 
 

 開け放した障子戸から、外の風が吹き込んできた。
 知らず体を縮こまらせ、身を切る寒さに耐え忍ぶわたし。
 そんなわたしと同様に、華やかに装うはずの木々も花びらをしっかり折り畳んでいるか、枝中に引き篭もらせているかが主流といった様子の、世間が色付くにはまだ少し――いや、まだかなり早い今日この頃。
 目前に広がる日本庭園には、先日施された雪化粧がわずかながら融けずに残っており、春を告げる緑はといえば、未だ弥(あまね)く生(お)いるまでには至っていない。
 訳せば『行進』といった意味になる月に入ったのだから、本当ならズンズン春が近づいてきてもいいはずなのだけれど、暖かな空気や開花前線はどこかで足踏みしているらしい。
「ううっ、寒……」
 再びの風に、わたしこと羽藤桂もその場で足踏みを開始する。
 時期的には春一番かもしれないそれは春風というには冷たく、天高くから降る陽光をはねてきらきらと輝いていた。
「わ、風光る――」
「――は春の季語ですわね」
 春の陽射しを含んだ風がいきいきと輝いて見えるさまを謳う言葉であって、粉雪を舞い踊らせた今のは未だ冬のもの。先ほど説明した通り、見渡す景色は冬模様。
「確かに花とくれば春でしょうけど、花は花でも風花ですわ」
 滑舌確かな言葉と共に視界の端から入ってくるのは、見るも艶やかな桃の花。
 彼女の振り袖に爛漫と咲き誇るそれを前にしては、高価そうな壺


 

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